「た途端(に)」

また台風が接近中。授業中は小雨だつたのだが、終つて外に出「た途端」、どしやぶりになつた。おかげでずぶ濡れ。


さて、この「た途端」といふのは日本語能力試験二級に出題される機能語のひとつ。参考書などでは「時間的同時性」を表すものとして、「と同時に」「かと思うと」「が早いか」などと共に挙げられてゐる。試験の問題(四択)としてはそれほど難しくはないものだが、接続する動詞の形を聞かれる設問だと梃子摺る学生も出てくる。下の文の括弧内に入る動詞は*1

  1. チャイムが(   )と同時に、子供たちは教室を飛び出した。
  2. チャイムが(   )かと思うと、子供たちは教室を飛び出した。
  3. チャイムが(   )が早いか、子供たちは教室を飛び出した。
  4. チャイムが(   )や否や、子供たちは教室を飛び出した。
  5. チャイムが(   )なり、子供たちは教室を飛び出した。
  6. チャイムが(   )か鳴らないかのうちに、子供たちは教室を飛び出した。
  7. チャイムが(   )途端、子供たちは教室を飛び出した。

(いつも学習者の視点でかういつた問題を見てると、どうして母語話者はすんなり答えられるのか不思議な気分になりますね。当然と言へば当然ではあるんですが。)
この中の「た途端」に関して、『中上級を教える人のための日本語文法ハンドブック』(ISBN:4883192016)に次のやうな記述があつた。

「〜たとたん(に)」は「〜と同時にetc.」に大変似ていますが、異なるのはPがきっかけや原因となってQが起こるというニュアンスがあるという点です。
(6) お金の話を持ち出したとたん、相手が怒りだした。
(中略)
そのような因果関係がなく、単にPとQがほぼ同時に起こったことを言いたい場合には、「〜たとたん(に)」は不自然になります。
(8) ×彼は家に着いたとたん、会社に電話をかけた。
  cf. 彼は家に着くや否や、会社に電話をかけた。

これは知らなかつた。
しかし「外に出た途端、雨が降り出した」という文はどうだらう? 前件と後件に因果関係はないが、普通に使へると思ふ。
この場合は、「因果関係があるかのやうに感じる」といふことか。本来、自分が外に出たことと、雨が降り出すことには何の関係もないはずなのだが、まるで神様か誰かが自分が家を出るのを見てゐて雨を降らせたやうなタイミングだ、と言ひたいのだらう。まるで自分の行動が雨を呼んだやうに感じる、と。「た途端」の基本的な用法からすると、例外的なものかな。

*1:1)鳴る 2)鳴つた 3)鳴る 4)鳴る 5)鳴る 6)鳴る・鳴つた 7)鳴つた