歌『いつも何度でも』

日本語能力試験二級レベルの機能語(「文型」)を扱ふクラスで『いつも何度でも』を取り上げてみた。「文型」を中心に教へる授業は流れが単調になりやすいので、息抜きといふか、気分転換に。
この歌の前半部に二級レベルの既習文型が二つ含まれてゐるので、その復習としても。

  • 「動詞連用形+きる/きれない」 動詞に「最後まで、十分に」などの意味を加へる。動詞の絵カードを使ひ、「読む」→「読みきる/読みきれない」といつた変換練習とともに、「何を読みきつたのか」と問ふ。「読みきる」に対しては、「長編小説」など分量の多いもの、読むのに苦労するやうな難しい内容の本などをあげるやうに指導。同様に、「走りきる」→「マラソン」、「食べきれない」→「三人分の料理」など。
  • 「動詞辞書形+たび(に)」「名詞+の+たび(に)」 「その時、いつも」といふ意味を表す。

以下はクラスのみんなで考へたこの歌の解釈の一部。有名な歌なので、みんな知つてはゐたのだが、意味をじつくり考へたことはなかつた模様。なかなかおもしろい結果になつた。

呼んでいる 胸の どこか奥で
いつも心踊る 夢を見たい

誰が呼んでゐるのか。「胸の奥にゐる私(自分らしい自分、理想の自分)」。
誰を呼んでゐるのか。「現在の私(困難な状況にゐる私)」
つまり、自分が自分に呼びかけて、励ましてゐる。呼びかけの内容が二行目。
いつもワクワクするやうな楽しい気分でゐたい。そんな気分になれるやうな「夢(理想、目標)を忘れないでゐたい。

悲しみは 数えきれないけれど
その向こうできっと あなたに会える

現状は、つい落ち込んでしまふやうな悲しいことがたくさんある。
「その向こう」の「その」は「数えきれない悲しみ」を指し、「向こう」は「その後で」。現状の「悲しみ」を乗り越えれば、「あなたに会える」と。「あなた」とは、今自分に呼びかけている「胸の奥にゐる私」、つまり自分らしさを取り戻せるといふ意味か。

繰り返すあやまちの そのたび人は
ただ青い空の 青さを知る

人は、失敗、挫折を繰り返すことで初めて成長するといふ意味だらうとの発言はすぐに出た。自分もさう思ふ。しかし、「ただ青い空の青さを知る」をどう考へるか。
まづ、挫折した人の様子を表してゐる、と。現代の我々は、ゆつくり空を見上げる時間など持てない。仕事などが順調に進んでゐる人ほど忙しく、立ち止まる暇はない。空の青さを知ることができるのは、皮肉にも(?)何かに失敗し、人生のレールから降りた状態にある人だけなのだ。
次に、「青い空の青さ」と、「青」が繰り返されてゐるところに注目。空が青いのは、当たり前のこと、みんな知つてゐる「常識」である。しかし、頭では「空は青い」と知つてゐても、その青さを実感したことがある人がどれだけゐるのか。「空の青さ」以外にも、「当たり前のことだか、日頃忘れがちな大切なこと」はたくさんあるだらう。例へば、ありきたりだが、家族の大切さ等もその一つだろう。それらは、失敗、挫折の悲しみの中で初めて実感として気づかされるものなのではないか……。
これが「日本語の勉強」になつたかどうかはともかく、楽しい時間でした。歌詞の解釈なので、正解といふものはないでせうが、なかなかおもしろい解釈ができたと思ひます。