『実践日本語指導見なおし本 機能語指導編』

実践 にほんご指導見なおし本 機能語指導編

実践 にほんご指導見なおし本 機能語指導編

教師(母語話者)用の本なのだが、単なるマニュアル本ではなく、「教へる」前に教師自身が言葉についてもつと考へてみよう、味はつてみようといふスタンスで書かれてゐる。それぞれの機能語ごとに「実際の使用場面」「類義語」「学習者の誤用」といふ三つの視点からの設問が提示され、読者(教師)がその設問を考へる過程でその言葉が持つ独特の意味・用法があぶりだされる仕組みになつてゐる。
例へば、「からこそ」といふ言葉。理由の「から」と強調の「こそ」の組合せで、文型辞典にも「理由や原因を取り立てて強調する言ひ方」とある。だが、これだけで学習者は「わかる」のか。
「からこそ」に関して、この本で先づ提示される質問は次のやうなものだ。

STEP 1
Q 次のやりとりのBの反応を読んで、Aが何と言ったのか考えてみましょう。
 A:(             )                       
 B:本当に会社のことを考えているからこそ、この企画を出したんです。(P.29)

「理由の強調」といふだけでは捉へきれない「からこそ」の用法が見えてくる。ここでは、相手からの批判を逆手にとつて自分の主張を有利に展開しようとする状況だ。かうした背景なしに「からこそ」は使へないのだ。授業中この流れをきちんと提示できれば、「暑いから、クーラーをつけませう」を強調するためにと「暑いからこそ、クーラーをつけませう」などといつた例文を学習者が作ることもない。
他にも「から」と「からこそ」を対比させた設問などがあり、読者(教師)の語感が厳しく試される。設問の後に筆者からの解説があるが、実際の授業でどのような説明・練習を行ふかについては、簡単なアドバイス程度で読者が自分で考へるしかない。しかし、この考へるプロセスを繰り返すことで、機能語に対する理解は格段に深まる。そして、それは非常に楽しい体験なのだ。この「楽しさ」を自分の学生にも伝へてあげたいと思ふ。帯に「あなたの指導にピリリと効く!」とあるのだが、さうであつてほしいものだ。
この本は、「カイ日本語スクール」の先生方が書かれたもの。現場での熱意と工夫が伝はつてくる良書だと思ふ。