続き

一時間目(横溝先生)ティーチャートークと媒介語使用(続き)

以上のやうな少し長めの導入の後、いよいよ本題「ティーチャートーク」について。
先づ横溝氏自身の「傾向」として以下の二つが挙げられた。

  • 意図的にゆつくり話すことはせず、自然な速さを心掛ける。
  • 学習者が教師の発言を理解できない時は、先づそのまま繰り返す。

ハワイ大学での授業の映像を少し見せてもらつたが、確かに速い。
このやうな行動を選択するにいたつた理由の一つは、ご自身の経験からださうだ。大学時代の英語教師(ネイティブスピーカー)は授業中ゆつくり話す人で、そのスピードに慣れてしまつてゐた横溝氏は、後にアメリカへ留学した時、普通のアメリカ人が話す速さに全くついていけず途方に暮れた、と。その教師は「わかりやすいやうに」とゆつくり話したのだらうが、結果として学生(横溝氏)の役には立たなかつた。このことから自分の学生にはこんな経験をさせたくないので、初級の時からできるだけ「自然な速さ」で話すやうにしてゐるとのこと。
また、「知識」として、教授法の一つALM(オーディオリンガルメソッド)では、「教師は不自然な日本語を一切学習者に聞かせてはいけない」との考え方があることの紹介。

tinuyamaの感想
やはり実際の授業の映像はおもしろい。横溝氏が話すスピードにも驚いたが、個人的にはアメリカ人学生の日本語の流暢さに感心させられた。少々会話の進行が滞つても、「えーと」とか「ぢや、どうしようかな」といふ言葉で間をつなぐことができてをり、全体として見ると自然なコミュニケーションに聞こえる。暗記してゐるフレーズをとりあへず並べるといふ感じではないのが、非常によい。

上の横溝氏の実践を聞いたあとは、研修参加者がそれぞれの「ティーチャートーク」を考える段階に入る。ここで参加者に問ひかけ。

  • 「昨日何をしましたか?」と学習者に質問しましたが、学習者はきよとんとしてゐます。質問の意味がわからなかつたやうです。あなたはどうしますか。

グループ内でそれぞれが実演する。学習者のレベルなどの状況設定がないので、やりにくいのだが、「昨日」の意味がわからなかつたらしいといふ自己設定でやつてみる。
教師(自分):昨日何をしましたか?
学生(他の参加者):……。
教師:黄さん、今日は(と、自分の目の前を指差しながら)水曜日です。今十時ぐらいです。昨日は(自分の後ろを指差しながら)火曜日。昨日はいい天気でしたね。昨日どこか行きましたか?
学生:どこも行きませんでした。
教師:ぢや、昨日うちで何をしましたか?


グループでこのやうな実演をやつた後で、横溝氏から「ティーチャートーク」についての説明。一言で言へば、「理解可能にするためのあらゆる工夫」。具体的には以下のやうなものがある。

  1. そのまま繰り返す
  2. ゆつくり話す
  3. 大きな声で話す
  4. 一語一語はつきりと話す
  5. 間を空けながら(ポーズをとつて)話す
  6. 難しい単語をより一般的な単語に変へる
  7. 文法的に簡単な構造の文を使ふ
  8. 視覚情報を利用する
    • 身振りや手振り、しぐさや表情を利用する
    • 教師、学習者が共通して見ることのできる事物(教室の中の物など)を利用する
    • 図や写真を利用する
    • 黒板に絵を書く
    • 母語を動員する(漢字を書いたり、英単語を書いたりする)等等

説明を聞いた後、またグループに分かれ、初級・中級・上級の各レベルに於いて自分はどのテクニックを使つてゐるか、または使はないのかを話し合う。そして、その理由も述べ合ふ。「意識化」するプロセスですね。自分のグループでは「ゆつくり話す」の人気がない。教師にゆつくり話されると、馬鹿にされてゐるやうに感じて嫌だといふ理由だつた。
最後に横溝氏からの話、「ティーチャートーク」といつても「話す」ことだけではなく、絵や身振りなどの視覚情報の利用も含めて考へたい。例へば、教室にカレンダーがあれば、今日の日付を指差しながら、「今日」と発話すれば意味は伝はる。また絵や写真は非常に有効なので、簡単な絵を書く練習もやつておいたほうがいい、と。

tinuyamaの感想
ここまで講師の話を聞くといふより、「自分たちで考へる」といふ形式で進んできたが、今回の研修ではこのスタイルが非常に有効だと思ふ。
しかし、自分も含めて皆「意識化」が不十分。例へば「ゆつくり話す」のは学習者に不快感を与へるおそれがあると口では言ひながら、実演した時には、みんな結構ゆつくり話してゐたぞ。

次に媒介語の使用をどうするかといふ問題に移る。日本で教へる場合、学習者の母語が異なるため、「直接法(媒介語なし)」にならざるを得ないが、台湾での日本語のクラスのやうな場合は、媒介語(中国語)での文法説明なども効果的に使つたはうがよいといふ話。
媒介語を使用する際の注意点などが説明されるが、時間が足りなくなり、配布された資料の内容をざらつとなぞる感じで終る。台北・高雄会場だと二日間の日程。うらやましい。
直接法では説明がしにくい項目の一つ、「です/ます体」と「だ体」の使ひ分けについて、「基本は心理的距離の大小」と説明すればいいといふアドバイスがあつたが、これは自分の教へ方と同じであつた(参考→id:tinuyama:20050203)。それから、横溝氏が助詞「は」「が」「を」「も」を媒介語(英語)を使つて説明するビデオがあつたのだが、これはお昼休みに教室で放映し興味がある人だけ見るといふことになる。