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新々百人一首〈上〉 (新潮文庫)

新々百人一首〈上〉 (新潮文庫)

丸谷才一が選ぶヒヤクニンシユ。または王朝和歌史。
一首についての注釈・評論の分量が統一されてゐない。例へば、伏見院の歌*1については「かういふ和歌については何も言ふ必要はない」と三行で済ましてゐる一方、平忠度の一首*2にはなんと五十ページをさくといふ具合。この忠度の歌が『千載集』撰入の際に「読人しらず」とされた理由から、勅撰集中の「読人しらず」の歌の分類、『千載集』成立の事情、そして『千載集』が『平家物語』に与へた影響と、書きたいことは書き尽くすといふ感じで圧倒されてしまふ。


『あめりか物語』永井荷風新潮文庫ISBN:4101069026
ページをめくつて、驚いた。全ての漢字に振りがながついてゐる。「私」や「心」などにもついてゐる。もともとかうだつたのか。まさか。他社の本で確認してみたいが、台湾にいると、さう簡単にはゆかない。
振りがなが嫌いといふわけではない。日本語学習者用に自作の読解教材などを作るときには、学習者の負担を減らすため、できるだけ振り仮名をつけるやうにしてゐる。しかし、文学作品でこれにはびつくりした。


『アーロン収容所』会田雄次中公文庫ISBN:4122000467
終戦後約二年間の英軍捕虜としての体験記。帯に「西欧ヒューマニズムに対する日本人の常識を根底から揺さぶり」とあるが、さういふ「常識」があつたことが驚き、といふか不思議。
収容所での暇つぶしに百人一首もつくつたとある。筆者のゐた中隊で九十九首まではわかつたが、一つ思ひ出せず、他隊に聞くのは「恥」なので、二日がかりで思ひ出した*3と。


茶の本岡倉天心著 桶谷秀昭訳(講談社学術文庫ISBN:406159138X
陳腐な表現だが、感動した。全く古びてゐない。うわさに違はず、訳文が美しい。

*1:咲きそむる梅ひとえだの匂いより心によもの春ぞみちぬる

*2:ささなみや志賀の都は荒れにしを昔ながらの山桜かな

*3:おほけなく浮世のたみにおほふかなわがたつそまに墨染の袖