四歳半

最近、日本語教育でいふ所謂「文型」を使つた文を口にするやうになつてきた。例へば「りんごも食べたし……」の「し」、また「ちやんと言つたのに……」の「のに」。
接続助詞の「し」は『みんなの日本語』では第28課の項目。

  • 熱もあるし、頭も痛いし、今日は会社を休みます。

「のに」は第45課。

  • お金を入れたのに、切符が出ません。

「し」も「のに」も、日本語学習者用のテキストでは、上の例文のやうに接続助詞として扱ひ、後件まで含めた複文の形で練習する。しかし、息子の発話では接続助詞としてではなく明らかに終助詞的な使ひ方をしてゐる。つまり、前後の文の関係を論理的につなぐためにではなく、言外のニュアンスを伝へるためにこれらの言葉を使ふわけだ。
「りんごも食べたし……」の場合、それ以外にもたくさん食べたから、おなかいつぱいだと言ひたいのだし、「ちやんと言つたのに……」の場合は、「いただきます」と言はなかつたと叱られた時、それに対して「もうちやんと言つた」のだと不満を表明してゐるわけだ。
子供だから、複雑な文は言へないといふのは当たり前なのだけれど、おもしろいと思ふ。日本語を「文法的」に考へようとすると、「のに」は逆接の接続詞といふことになり、まづ「単純な逆接」である「が」を教へた後に、「意外・不服」などの気持ちを含む逆接の表現「のに」を導入するといふ流れになつてゐる。しかし子供の場合、「が」なんて使ふ状況はほとんどないのではなからうか。
大人が外国語を習ふ場合と、子供が母語を習得する過程の違ひ。目の前に「実例」がゐるので、今後も少しづつメモしてゆきたい。