大橋と小橋(連濁)

どうして小橋は「こばし」なのに、大橋は「おおはし」なのでせうか。
いはゆる連濁の問題なのですが、以前他の先生が生徒に質問されて困つたとおつしやつてゐたので、ちよつと考へてみました。
まづ連濁の規則ですが、ネット上をいくつか見てまわつても「〜の場合、連濁がおこりやすい/おこりにくい」といつた記述が多く、例外も多いやうです。連濁の規則を「体系的に記述するのは無理」といふ言葉も目にしましたが、とりあへず『月刊日本語』(1998年7月号)から基本的な規則を便宜的にまとめておきます。他に#7 連濁規則とその例外熟語集:::Nihon5ch.net:::などにも解説があります。

  1. 後ろの言葉が和語のものは連濁する:一本木・木漏れ日・草刈鎌・大黒柱・人だかり(*この例には、前の言葉が助数詞や用言の名詞化したものもある。また「人だかり」のやうに後ろの言葉が用言の名詞化したものでもいいのか。しかし、語の構成によつては細かい違ひが出てくるのでないかとも思ふが今はおいておく。)
  2. 後ろの言葉が和語であつても、濁音を含むものは連濁しない:北風・土壁 他
  3. 「Aと(や)B」といふ関係のものは連濁しない:山川・田畑・草木(*草花(くさばな)は「草と花」ではなく「草に咲く花」といふ意味らしい。)

さて、「大橋」と「小橋」。「はし」は和語なので、連濁がおこるのが普通(?)。では、なぜ「大橋」は連濁がおきないのでせうか。
『新明解(第四版)』で「大(おお)」がつく複合名詞を探してみました。まづ連濁になつてゐるもの。

【連濁する】
大掛かり・大型・大切り・大食い・大口(おおぐち)・大組・大げさ・大声・大事(おおごと)・大酒・大仕掛け・大相撲・大勢・大関・大空・大太鼓・大立者(おおだてもの)・大店(おおだな)・大掴み・大筒・大詰め・大手(おおで)・大戸・大通り・大所・大年(おおどし)・大年増・大葉(おおば)・大判・大引き・大引け・大船(おおぶね)・大降り・大振り・大風呂敷・大部屋

次に連濁しないもの。

【後ろの言葉に濁音を含むもの→もともと連濁しない】
大風(おおかぜ)・大木戸・大騒ぎ・大仕事・大掃除・大掃除・大外刈り・大幅
【後ろの言葉に濁音を含まない→連濁するはず?】
大方・おおかみ(狼)・大川・大鼓(おおかわ)・大君(おおきみ)・大口(おおくち)・大蔵・大潮・大島・大立ち回り・大手(おおて)・大手合い・大殿(おおとの)・大鳥(おおとり/鳳)・大祓い(おおはらい)・大広間

後ろの言葉が濁音を含まないのに、連濁しないものが意外にたくさんありますが……。「おほかみ」「おほきみ」「おほとの」「おほとり」等を見ると、「おほ」が単に「(数・量などが)大きい」といふことではなく、「偉大な/正式な」などの意味を持つてゐることがわかります。
『岩波古語辞典』を見ると、「おほ」には「数・量・質の大きく、すぐれていること」、また「おほき」には「分量の大きいこと、さらに、質がすぐれ、正式、第一位であることを表した」とあります。この意味の違ひが連濁にも関係があるのではないかと考へたのですが、どうなのでせうか(「すぐれてゐる」「正式な」などの意の場合は、連濁がおきない。)
とりあへず、メモとして書いておきます。