『ひらがな日本美術史』橋本治*2

いろいろな写真をこちらの生徒に見せたかったので、今回思い切って5巻までまとめて買ってきた。しかし、自分の無知に驚くばかり。正直に書いておく。自分は運慶の「無著菩薩・世親菩薩立像」をこの本の写真で初めて見た。そして圧倒されてしまった。なんて「目」だ。

一目見ればわかる。これは、「とても苦労をした人間の像」である。これは、「いまだに苦労の中にある人間そのものの像」で、そういう苦労の一切を超越してしまった“人間を超えたものの像”ではない。私が《無著菩薩立像》《世親菩薩立像》を“誰にでも理解出来る彫刻”というのはそのためである。苦労をした人間、苦労をしている人間には、この像がとてもよく分かるはずだ。
『ひらがな日本美術史』P.129

自分が苦労しているかどうかはともかく、この彫刻はすごい。「彫刻」というジャンルに初めて心が動かされた。この二つの像の「目」。深い悲しみをたたえ、しかしそれでも信じて見つめる目。何を見ているのか。興福寺まで実物を見に行きたくなった。
しかし、この日本彫刻史上の“傑作”を今まで知らなかったなんて・・・。最近、日本の古典文学、美術、歴史などに関していかに自分が無知だったから思い知らされることが多い。忘れたとかじゃなくて、完全に知らないのだ。もっと若い時に見ておきたかったと思う。