御苦労様

全くの見当違ひかもしれないが、思ひついたことをメモしておく。

平成17年度「国語に関する世論調査」の結果について(http://www.bunka.go.jp/1kokugo/17_yoron.html
4.仕事が終わったときに,どのような言葉を掛けるか
(1)一緒に働いた人が,自分より職階が上の人の場合
(2)一緒に働いた人が,自分より職階が下の人の場合

お馴染み、「お疲れ様」と「御苦労様」についての調査なのだが、この二つの言葉の使分けを、相手が目上か目下かだけで考へてもいいものだらうか。
慥かに手持ちの国語辞典、類義語辞典日本語教師用の指導書、どれを見ても、「御苦労」の項には「一般に目上の人には用いない」(『新明解国語辞典第五版』)といつた記述がある。しかし、「御苦労様」を目上の人間に使ふ場合があるでせう。
ヤクザ映画などで「兄貴」がわけあつて刑務所に入り、刑期を終へて出所してくる。門の外には「兄貴」の弟分たちが待つてをり、タバコに火をつけてやりながら、

「御勤め御苦労様でした」

かういふ場面で「お疲れ様でした」といふのは聞いたことがない。
使分けの基準として私が考へるのは、「苦労」なり「疲れ」などの「骨折り」が話者のためになされたのかどうかと云ふ点。
つまり、「御苦労様」と云ふ時は、相手が話者のために骨折つてくれた場合だ。相手の骨折りが(間接的にでも)話者に利益をもたらすと話者が感じてゐる場合、「御苦労様」になるのではないか。上のヤクザ映画では、「兄貴」が弟分たちを含む組織のために一人で損な役回りを引き受けたのだ。
一般的に「御苦労様」が「目下に対して使ふ」と云はれるのは、通常は上司が部下に対し指示を出し、部下が(上司を含む組織のために)仕事をすることが多いからに過ぎないのではないか。
他にも、かういふのはどうか。路上で夜警のお巡りさんに出会つたとして、「お疲れ様です」と「御苦労様です」、どちらの言葉をかけるだらうか。
また、夫婦の会話を考へてみて、妻が夫に(もちろん夫が妻にでもいいけど)、「お疲れ様でした」と云ふ時と、「御苦労様でした」と云ふ時とで、相手の「骨折り」の内容に違ひを感じないか。この場合、個人的には「御苦労様」のはうに「感謝の気持ち」といふか、「私(たち)のためにありがたう」といふニュアンスを自分は感じるのだけれど、考へすぎかな……。


ここまで書いて気づいたのが、上の調査では「会社で仕事を一緒にした人たちに対して」となつてゐるが、自分が挙げた例ではどれも「相手だけが仕事をした」場合になつてゐる。これだと比べられないかな……。しかし、「お疲れ様」と「御苦労様」を目上、目下といふだけで使分けることには、やはり疑問を感じる。