『無米楽』(台湾 2004年)

台南に暮らす農民の生活を、四人のお年寄りを中心に淡々と綴つたドキュメンタリー映画
題名の「無米楽」といふ言葉の意味がわからなかつたのですが、「むじな@台湾よろず批評ブログ」の五月二十四日の記事で紹介されてゐました。

「米がなくても楽しく暮らせる」と、不作のときの慰め、諦め、開き直りにも似た言葉である。

上記リンク先に詳細なレビューがあります。


後を継ぐ者もをらず、安い外国米流入の問題などで大きな転換期を迎えてゐる台湾の稲作農家。この映画の登場人物たちの口からも「WTO加盟は台湾の農民を殺すものだ」、「農民の収入は公務員の半分。しかも、退職金も週休二日制もない」などと云つた言葉が吐き出される。「六十歳、七十歳と云へば、オレのオヤジの世代には、廟の前で日向ぼつこしてゐたものさ。ところが、オレらは今でもあくせく働かなけりやならない」、「あと数年したら動けなくなる。たぶん、オレらが最後の世代だらう」*1
しかし、かうした「重いテーマ」を扱ひながらも、映画のトーンは全く暗くならない。苦しい生活の中でも、彼らはよく笑ひ、また、冗談を云つて観客をも笑はせてくれる。彼らの素朴な人柄、明るい振る舞ひには、見てゐるこちらが癒されるやう。
良質のドキュメンタリーだとは思ふ。ただ、個人的には、ちよつと「後味」がよすぎやしないかとも感じた。登場人物の明るいキャラクターに助けられて我々観客は笑ひながら画面を見てゐることができる。別に変に深刻ぶる必要はないのだけれど、登場人物の強烈な個性が全編を覆つてしまつた結果、台湾の農業が抱へる問題がこちらに届いてゐないのではないかとも思ふ。映画が終つた後の館内の雰囲気が「ああ、おもしろかつた」「ああ、笑つた、笑つた」といふ感じだつたのも気になつた。まあ、これは観客一人一人の問題ではあるのだらうが。
うまく云へないのだけれど、この映画では、映画の作り手も、観客も、登場人物のやさしさに依存しきつてしまつたやうな……。


それから、台中での上映だけなのかもしれないが、画像がだめだめだつた。普通のテレビ画面を無理やり拡大したやうな感じ。もともとビデオ撮影だつたのだらうか。あの画像レベルなら、大画面よりもテレビ放送のはうが向いてゐる。

*1:正確な訳ではありません。断片的に覚えてゐる字幕から。自分は台湾語はできません。