問題な日本語―どこがおかしい?何がおかしい?

問題な日本語―どこがおかしい?何がおかしい?

日本に旅行に行つた生徒がこの本を買つてきたので、貸してもらつた。
全国の高校の国語科の教師に指摘してもらつた「気になる日本語」の用法について、『明鏡国語辞典』の編者が解説したものに加筆、本にしたものだとのこと。
肯定表現で使ふ「全然」の用法など*1いくつか興味深い解説もあるのだが、全体としては、項目ごとの分量が少ないこともあり、当り障りのない記述に終始してゐる印象。例の「よろしかつたでせうか」についても、「注文が過去のものと見なされれば許されるのではないか」と簡単に済ましてゐるのも期待外れだつた。
また、本文中に頻出する「『明鏡国語辞典』では……と説明しています」といふ記述には興ざめ。辞書の宣伝の一環なのか。
それから、本書中に何度も言及されてゐる「現代仮名遣い」について。

「人妻」は「ひと」+「つま」からなるので「現代仮名遣い」では、二語の連合を適用して、「ひとづま」と書く。「稲妻」は、現代語の意識では二語に分解しにくいものとして「いなずま」と書く。(P.22)

これは「現代語の意識では分解しにくい」といふより、「現代仮名遣いだと、分解しにくくなる」つてことぢやないのか。かうした言葉の意味をわかりにくくするといふ点は、はつきり現代仮名遣いの缺点だと思ふのだけれど。「本則」とか「許容」とかを覚えることに意味があるとも思へないし。でもまあ、この本の著者の方々(共著)は現代仮名遣いを規範として書かなければならない立場の人なのかなと思つてゐたら、「おとっつぁん」について次の記述が……。

「現代仮名遣い」には、語を書き表すための仮名として、「あ」など直音を七十種、「きゃ」など拗音を三十六種掲げるが、その中に「つぁ」はない。(中略)和語には「おとっつぁん」「ごっつぁん」「八つぁん」くらいしかなく、特殊なものだが、正しい書き方である。(P.47)

現代仮名遣いにはないものを「正しい」とする基準は何なのだらうか。それが知りたいのだが。

*1:「全然」と肯定表現の呼応について、漱石などの作品中の用例をひき、古くからある表現であることを示すだけでなく、現在の用法については「単なる強調」ではなく、「あなたが思っていることとは違って」といふ限定で使はれてゐるとの指摘がある。