翻訳

tinuyama2004-07-14

この二日間、自分の学生の一人がやっている翻訳のアルバイトにずっと付き合うはめになってしまった。この子は、数年前に日本語能力試験1級にも合格していて、日本語に関してはかなり優秀な女の子。それが、今度の仕事は歯が立たないと泣きついてきた。
内容は日本の会社から台湾の会社への技術許諾の契約書。これが本当に難しい。まず、部外者である自分や彼女には、これがどういう「技術」なのか見当もつかない。そして、契約書の文章の構造がおそろしく複雑なのだ。実物を書き抜くわけにはいかないが、この文章を見て、自分が思い出したのは久野暲『日本文法研究』(ASIN:4469220051)の中にあった次の例文。

  • 太郎が飼っている猫が殺した鼠が食べたチーズは腐っていた*1

上の例文のように関係代名詞節がいくつも重なっており、どれがどの名詞を修飾し、どこで文が切れるのか、まったくわからないと彼女は言う。
書類には二週間前の日付があるのだが、彼女が頼まれたのは今週の月曜の夜で、これを2日でやらなければならいらしい。この台湾の会社にも日本語の担当者はいるのだろうが、おそらく担当者の手に負えなくて翻訳会社に回され、そこから彼女のところに回って来たのではないかとのこと。
しかし、自分のところに来られても、自分の中国語はたかがしれたもの。それで、自分は契約書の内容をもっと簡単な言葉で言い換えたり、文の構造を説明([[[太郎が飼っている]猫が殺した]鼠が食べた]チーズは腐っていた)したりしながら、二人で少しずつ翻訳することになった。能率悪いことこのうえなし。
まあ、彼女は本職の翻訳家でもないし、ビジネス文書を読みなれているわけでもないので、時間がかかっても、それは当然か。彼女自身も勉強のためにと翻訳のバイトをしている。しかし、日本の会社はもう少しわかりやすい契約書を用意したほうがいいんじゃないのか、と思う。日本語の契約書を押し付けておいて、実際それを訳してるのは、こんな危なっかしい二人組みだったりすることもあるのですよ(笑)。誤訳の可能性など考えないのだろうか。また英語で書かれた契約書であれば、台中でも翻訳はもっと簡単にできると思うのだけれど。


*「現状有姿」という言葉を初めて知った。自分が持ってる辞書にはなかったが、Googleで検索すると、どっさり出てきました。自分も勉強になりました。

*1:この例文を英語に「直訳」すると、ほとんど理解度ゼロの文が生じるとのこと。*The cheese that the rat that the cat that John owned killed ate was rotten. さて、中国語では「直訳」できるのでしょうか。