歌「ルージュ」中島みゆき*1

中国語圏では「ルージュ」のカバー曲「容易受傷的女人」が以前ヒットしており、これまでも何度か日本語の歌詞の意味を教えてくれと頼まれたことがあった。今回id:yukattiさんが「解題」を書いてくださったので、それを参考にしつつクラスで扱ってみることにした。http://d.hatena.ne.jp/yukatti/20040223
以下、そのクラスの一部を報告しておきます(yukattiさん、遅くなってすみません・・・)。

  • 歌詞のコピーを配り、一度通して聞かせる。「ああ、あの曲ね」という感じで、みんなメロディーは聴いたことがある様子。しかし、内容は歌詞を見ても、この時点ではほとんど見当がつかないと言う。このクラスは日本語能力試験の3〜2級程度の力はあるのだけれど、「歌詞」となるとさすがに難しいか。

でも、今回は歌詞の解釈を、できるだけ生徒自身に考えてもらうつもり。どんな解釈が出てくるのか、自分も楽しみ。出席者は10名(10代後半〜30代女性と男性20代が一人)。

口をきくのがうまくなりました
どんな酔いしれた人にでも
口をきくのがうまくなりました
ルージュひくたびにわかります

  • 「口をきく」は口の慣用句の一つとして既習。「口が軽い」「口を出す」「口にする」その他といっしょに勉強したはずなのだが、やはりみんな覚えていなかった。「会話する」と説明し、「友達とけんかして、ずっと口をきいていない」などの例文で確認。
  • 形式名詞「の」の使い方(『みんなの日本語』第38課)。「動詞辞書形+のが上手です(下手です/好きです他)」の文型を確認。
  • 2級重要文型「動詞辞書形+たび(に)」 「その時、いつも」という意。「旅行に行くたびに」「ここへ来るたびに」「この写真を見るたびに」などに続けて例文を考える練習をする。
  • 「ルージュ(を)ひく」を「口紅を塗る/つける」と説明したところで、「あっ」と思う。出席者の女性で口紅をつけている人が一人もいない! 学生一人を除いて8人はみな仕事をしている人なのだけれど、みな化粧なし! 台湾では日本のようにばっちり(?)化粧してる人のほうが少ないのだ・・・。
  • 「酔いしれた人」と話すという部分から、この人は水商売の人だろうという解釈が出る。だから、毎日口紅をつける、と。

あの人追いかけてこの街へ着いた頃は
まだルージュはただひとつ うす桜
あの人追いかけてくり返す人違い
いつか泣き慣れて

  • 「あの人=わたしが好きな人」というのは簡単に出てきたが、次の「うす桜」が全然わかってもらえなかった。「桜」を文字通りの「桜」ととってしまったようで、「春ってこと?」といった発想で止まってしまう。「うす桜」からその色をイメージするのは日本人にとっては自然なのだけど、台湾の人だとそうはいかないのだろうか。意外なところでひっかかってしまった。それで、「うす桜=ルージュの色」、また「ただひとつ」ということから、この人が「化粧を覚えたばかり=若い」ということが想像できると、私から助け舟を出しておく・・・。
  • 「あの人追いかけて」について。同じ「あの人」をずっと追いかけるのか、「あの人」に似ている人をいつも好きになってしまうのかが、自分では判断できなかったのだけれど、クラスのみんなは「似ている人」説をとった。「私が好きになる人も、みんなどこか似てるのよね」という発言があり、決定的になる。
  • ちなみに上のようなコメントはみんな中国語になってしまってる。日本語のクラスとしてはよくないのだけれど、今日はまあいいか。また、このコメントからもわかるように、歌詞の内容を自分自身に重ねて考えるようになっている。うち一人はあきらかに心を動かされているようで、涙目になっている(びっくりした!)が、そっとしておく。
  • この歌の中の「私」が「水商売の女性」のイメージ固定しまうのもどうかと思ったので、yukattiさんの解題を参考に、もっと一般的な若い女性について考えてもいいと言っておく。日本の場合は仕事やその他でお酒を飲む機会が多いんです、自分は飲まないまでも、酔っ払った人と同席しなければならないことはよくあるんですよ、と。こちらの人は、男でも日常的にお酒を口にする人は意外に少ない。

生まれた時から渡り鳥も渡る気で
翼をつくろうことも知るまいに
気がつきゃ鏡も忘れかけた うす桜
おかしな色と笑う

  • 2級相当の重要語句「知るまい」の「まい=ないだろう」、「忘れかけた」の「連用形+かける:もう少しでそうなりそうだ」の説明。それから、「気がつきゃ」の「つきゃ」は「つけば」の口語縮約形と説明。「行けば→行きゃ」「食べれば→食べりゃ」その他。
  • 最後に、「鏡も忘れかけたうす桜」について、「今の私が、昔の私を忘れかけてたということでしょう?」というコメントが出る。うん、自分もそのとおりだと思います。このコメントはうれしかった。様々な経験を経て変わってしまった自分、そこに聴き手がそれぞれの想いを重ねて聴ければいい。

今回の授業は、後半ほとんど中国語でのおしゃべりに近い形になってしまったんですが、非常に盛り上がりました。しかも、歌を聴きながら涙を流す人まで出て、「歌の力」を実感。