「親切な人」

非漢字圏にいらっしゃる教師の方々の苦労を考えると、台湾で日本語を教えるというのは、ずいぶん楽なのだろうなあと思う。
今日も、クラスで「あなどる」という動詞の意味を聞かれた時、授業の流れとは関係ない質問だったこともあり、「軽視する・軽蔑する」と板書してサラッと済ませてしまったのだけれど、非漢字圏ではこんな説明は通じないだろう。「見下す」とか「軽く見る」とか言ってもわかってもらえるだろうか。自分にはそういった面での経験とか工夫が足りない。「漢字」に甘えてる。
しかし、逆に「漢字」のせいで誤解をまねくこともある。意味がまったく違う場合もあるから。
たとえば、けっこう知られているものでは「百姓」。日本語では「農民」の意で使われるが、中国語では「人民・民衆」といった意味になる。
また、「士農工商」の「士」は、日本人にとっては「武士」のことだが、中国語では、「読書人・知識階級」になる。
それから「留守」。これは中国語とまったく意味が逆なので、みなさん不思議そうな顔をする。漢字を見れば、「留まって守る」(日本語の「留守番」)なのに、どうしてこれが「不在」の意味になるのか。室町時代の『日葡辞書』には「ルスヲスル: 他の人の不在中、家に残っていて番をする」とあることから日本でも昔は漢字どおりの意味だったのが、文字を知らない人々の間に「音」で広まっていく間に意味が変わってしまったらしい(『日本語相談(二)』*1p107)。
でも、まあ意味が大きく違う場合は「こりゃ、おかしい」とすぐわかるのだけれど、その差が微妙な場合、お互いがわかったつもりになって気づかないままになってしまうこともある。
自分にとっては、「親切」という語がそれ。最近やっと気づいた。日本語では「好意をもって人のために何かする」の意。中国語にも同じ意味はあるのだが、もう一つ「親しみを感じる」という意味もある。「あの人は親切です」「親切な人」というのは、ごく初級の段階の形容詞の導入で出てくるんだけど、漢字でわかるだろうと思って長い間きちんとした説明をしてこなかった・・・。う〜ん。
(*ちなみに、今日のタイトルの「虎頭蛇尾」は日本語の「竜頭蛇尾」。中国語から入った言葉なのは間違いないだろうけど、いつから「竜」に変わってしまったのだろう。)